- 24/12/21
12月11日発行後、海事関連の研究者の皆様や企業、団体並びに公立や大学の図書館に配本しました。配本先図書館等はこちらからご覧下さい。
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≪序文≫
本年も、『海事交通研究』第72集をここにお届けいたします。
執筆ならびに査読をいただいた先生方にお礼を申し上げます。
今号では、前号、前々号でも採り上げられた「自動運航船」関連の冒頭の 2 本の論文、「船級協会」関連の論文、太平洋戦争期の日本の海運政策についての論文、さらには、災
害時のみならず武力紛争時の運用も考慮に入れた「病院船」に関する論文があり、非常に多岐に亘る内容となっていると思います。
このうち、太平洋戦争期の日本の海運政策についての論文では、当財団創設者の山縣勝見が、戦時中に「海運自治連盟」を結成した村田省蔵氏の下で、海運統制の実務に携わっ
ていた当時に執筆したいくつかの論考や大著『戦時海運統制論』(1944 年)が脚注に引用されています。当時、戦争の遂行に当たり、民間船舶の国家管理、陸海軍への徴用が進み、
山縣らは海運統制の下で、船舶の運航管理を如何に効率的に行っていくか、その手順作りと運用に腐心していたことが伺われます。こうして実行に移されていった海運統制でした
が、陸海軍首脳の関心は最前線の戦闘、海軍にあっては日露戦争以来伝統としてきた「大艦巨砲主義」の艦隊決戦を作戦の中心にし、戦場に至る物資の海上補給を担った民間船舶
からなる輸送船団の護衛にはほとんど目を向けていなかったので、戦争の進展に伴い、多くの民間船舶と船員が戦争の犠牲になり、船舶の補給もままならず、戦争の帰趨に致命的
な影響を及ぼしました。
今号の最後には、2021 年『暁の宇品―陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』を執筆した堀川惠子氏による特別寄稿を掲載しました。広島市宇品にあった陸軍船舶輸送司令部を描いた
本作は、船舶の重要性についてあますことなく伝えた力作であり、戦後 80 年に当たる 2025年の年明けを間近に控え、是非多くの皆様にこうした「歴史」を「過ぎ去ったこと」とし
て終わらせることなく、今後とも記憶に留めて頂きたい、と切望します。
世界に目を転ずれば、2022 年 2 月に開始されたロシアのウクライナ侵攻や、2023 年 10月に勃発したパレスチナ・イスラエル間の戦争の先行きも不透明であり、世界の国家間、
或いは同じ国家内でも、分断が深まりゆく気配が感じられます。これまで世界の潮流であった「グローバリズム」や「ダイバーシティ」、或いは環境重視の動きに対しても、それら
を再考する動きも見受けられ、もどかしさが感じられます。
海運の世界もこれらの世界の動きから少なからず影響を受けざるを得ず、現に、武装組織による商船への攻撃が増加している紅海の航行を回避し、喜望峰迂回が常態化している
など、さまざまな影響が生じています。世界中の人々にとって不可欠な自由な通商の流れ、航海の安全を確保するためにも、早期の平和の実現が望まれます。
また、この欄でも何度か言及していますが、四方を海に囲まれ、海から多くの恩恵を受け、世界中からの食糧・生活物資・エネルギーの供給を受けている日本人にとって、「海」、
「船」そして「海運」の世界は、もっと身近で親しみやすい存在になっても良いはずであり、そのための広報の努力を今後とも続けて行ければと思います。
序 文
2
今後とも、この誌面において、多くの優れた論考が寄せられることを期待し、最後になりましたが、皆様のご健康とますますのご発展とをお祈りして、筆をおきます。
2024年12月
一般財団法人 山縣記念財団
理事長 郷古 達也
≪目次≫
序文 |
郷古 達也 |
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≪研究論文(査読付き)≫
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海上交通管制の機能的発展と展望
―自動運航船の普及に向けた VTS 機能の再検討と MTS の共進化―
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鮫 島 拓 也 |
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自動運航船における遠隔操船所(Remote Operation Center)の法的性質とその課題
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下 山 憲 二 |
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船級協会に対する責任の追及と裁判権免除
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坂 巻 静 佳 |
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太平洋戦争期における日本の絶対的海運政策
―外国船利用政策と戦時造船政策を中心に―
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梶 尾 良 太 |
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日本の現状を踏まえた病院船に関する一考察
―武力紛争時の運用の考慮―
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浦 口 薫 |
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≪特別寄稿≫
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『暁の宇品』を執筆して
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堀 川 惠 子 |
執筆者紹介
山縣記念財団からのお知らせ
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≪執筆者紹介≫
(掲載順)
鮫島 拓也(さめしま たくや)
海上保安大学校本科卒業 三級海技士(航海)。筑波大学大学院システム情報工学研究科前期課程修了 修士(社会工学)。海上保安大学校海上警察学講座講師、海上保安
国際研究センター研究員。研究分野は、海上交通政策、海難事故分析、海上交通法規など。
論文:「自動運航船の実用化と海上交通法規が抱える諸問題―“vessel”(「船舶」)の定義に関する一考察」海上保安大学校研究報告第 67 巻第 1 号(2022 年)など。「データ
駆動ベイジアンネットワークを用いた海難事故分析」(日本航海学会、2024 年 5 月)、「近海海運における自動運航船の普及に向けて―海難事故リスクへの影響と法的課題―」海
上交通法規研究会(日本航海学会、2024 年 10 月)など。
所属学会は、日本航海学会、日本公共政策学会、日本地域政策学会。
下山 憲二(しもやま けんじ)
関西大学法学研究科博士課程後期課程単位取得退学。修士(法学)。高知短期大学准教授を経て、2015 年海上保安大学校准教授に就任し、2021 年に教授。政策研究大学院
大学連携教授も併任。専門は国際法(海洋法)、研究テーマは海洋の科学的調査、通航権、海上法執行。
主要論文に「海洋環境保護を理由とする無害通航の規制―沿岸国による海洋環境保護措置の拡大を中心に―」、「排他的経済水域における Military Survey に
関する一考察」、「武力攻撃事態等における海上法執行機関の法的地位と課題」、「無人航空機を使用した海上法執行活動に関する課題」がある。当誌には「係争海域内での海洋
の科学的調査―第三国による実施に伴う課題を中心に―」第 66 集(2017 年 12 月)、「自動運航船の導入に伴う沿岸国の課題―法執行の観点を中心に―」第 71 集(2022 年 12 月)
へ寄稿がある。
所属学会:国際法学会、防衛法学会、日本海洋政策学会等。
坂巻 静佳(さかまき しずか)
東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)(東京大学)。静岡県立大学国際関係学部講師、同准教授を経て、現在同教授。専門は
国際法。国際海洋法に関する近著として、「自動運航船と国連海洋法条約上の旗国の義務」『海事交通研究』71 集(2022 年 12 月)、「海洋構築物の保護法制」奥脇直也・坂元
茂樹編『海上保安法制の現状と展開:多様化する海上保安任務』(有斐閣、2023 年)、「感染症の発生した外国船舶に対して寄港国のとりうる措置――入港の許否と入港中の船
舶に対する管轄権」坂元茂樹・植木俊哉・西本健太郎編『日本の海洋法制度の展望』(有信堂、2024 年)等。
所属学会は、国際法学会、世界法学会、日本海洋政策学会等。
梶尾 良太(かじお りょうた)
北海道大学大学院文学研究科歴史地域文化学専攻修士課程修了。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程文化形態論専攻。修士(文学)。兵庫県立龍野北高等学校定時制課
程教諭、兵庫県立加古川北高等学校教諭を経て、現在は兵庫県立加古川南高等学校教諭。
専門分野は、日本近現代史、戦時経済史。大阪歴史科学協議会研究委員、兵庫県高等学校教育研究会社会(地理歴史・公民)部会本部情報部長を務めている。主な論文に「太
平洋戦争前半期における日本の戦争指導と船舶問題―船舶の配分をめぐる問題を中心に―」(『ヒストリア』第 303 号、大阪歴史学会、2024 年 4 月)、「戦時体制下における日
本の海運業と統制―1937 年~1942 年―」(『北大史学』第 59 号、北大史学会、2019 年11 月)がある。
所属学会は、史学会、日本史研究会、軍事史学会、社会経済史学会、大阪歴史学会、大阪歴史科学協議会、北大史学会。
浦口 薫(うらぐち かおる)
防衛大学校国際関係論学科卒業後、海上自衛隊入隊。防大総合安全保障研究科前期課程修了(山﨑学生奨励賞受賞)、同後期課程満期退学。2020 年に大阪大学より博士号(国
際公共政策)授与。潜水艦部隊、統合幕僚監部等での勤務や中曽根平和研究所主任研究員等の研究活動を経て、現在、防大国防論教育室准教授(2等海佐)。著書:『封鎖法の
現代的意義』(大阪大学出版会、2023 年)(猪木正道賞奨励賞受賞)。
当誌に「戦時に紛争非当事国の海上交通が直面する脅威の変遷と対応 ―戦時に海上交通を確保するための具体策―」『海事交通研究』第 72 集(2023 年 12 月)へ寄稿があるほか、多数の査読論
文あり。学会報告:「海上封鎖の現代的意義」国際法学会への報告、2022 年 9 月等。
専門は海洋安全保障、国際法(特に海戦法規、海洋法)。
所属学会:日本防衛学会、国際法学会、世界法学会、防衛法学会、国際安全保障学会等。
堀川 惠子(ほりかわ けいこ)
ノンフィクション作家 1969 年広島県生まれ
広島テレビ放送・報道部記者を経て東京で独立。テレビディレクターとして放送ウーマン賞、放送人グランプリ、ギャラクシー賞大賞受賞など。2013 年から執筆に専従。『死
刑の基準』(日本評論社)で講談社ノンフィクション賞、『裁かれた命』(講談社)で新潮ドキュメント賞、『教誨師』(講談社)で城山三郎賞、『原爆供養塔』(文藝春秋社)で
大宅壮一ノンフィクション賞、『狼の義 新 犬養木堂伝』(KADOKAWA)で司馬遼太郎賞、『暁の宇品』で大佛次郎賞、及び山縣勝見賞・特別賞(同作を通じて船舶の重要
性を伝えた著者とその講演活動に対して)を受賞。
最新刊は『透析を止めた日』(講談社 2024)。
広島大学特別招聘教授、讀賣新聞読書委員、開高健ノンフィクション賞審査員、アジア・太平洋賞選考委員などを歴任
(敬称略)