2024年山縣勝見賞受賞者決定

 当財団は、2008年に設立者の名前を冠した「山縣勝見賞」を創設し、海運を中心とする海事交通文化の研究及び普及発展に貢献された方々を顕彰し、その研究成果(著作・論文)や業績を対象として表彰する制度を発足しましたが、このほど「2024年山縣勝見賞」の受賞者が下記の通り決定しましたので、お知らせ致します(敬称略)。
 なお、贈呈式は7月16日に都内にて開催する予定です。

2024年山縣勝見賞受賞者概要

   

≪著作賞≫
根川 幸男著『移民船から世界をみる 航路体験をめぐる日本近代史』
(法政大学出版局、2023年8月刊)

受賞者略歴
 1963年大阪府生まれ。サンパウロ大学哲学・文学・人間科学部大学院修士課程修了。博士(学術)(総合研究大学院大学)。専門は移植民史。ブラジリア大学文学部准教授を経て、現在、国際日本文化研究センター特定研究員。同志社大学、滋賀県立大学、広島大学で兼任講師。主要著書に『ブラジル日系移民の教育史』(みすず書房、2016年)ほか。

選考理由
 移民船の船旅という観点からの考察は、独創性があり乗船体験の紹介も珍しい。海洋動物との出会い、食事にまつわること、船内の揉め事など、飾らない日常が読み取れる。また、歴史的背景、写真、資料を添えることで記述が引き立っている。まさにわが国の近現代史の1側面であり、その歴史において船舶が果たした役割は指摘して余りあるものであり、本書はそのことを改めて気づかせてくれる好著として評価できる。 

   


松尾 俊彦著『日本の内航海運の研究』
(晃洋書房、2023年12月刊)

受賞者略歴
 1955年広島県生まれ。1976年広島商船高等専門学校航海学科卒業。1980年東京商船大学商船学部航海学科卒業。2002年東京商船大学大学院商船学研究科博士後期課程修了、博士(工学)。現在、大阪商業大学総合経営学部教授。主要著者に『モーダルシフトと内航海運』(共著、海文堂出版、2020年)ほか。

選考理由
 外航の海運と比較すると、相対的に研究が少ない内航海運において、いろいろな切り口から、問題の本質を考察し、体系的かつ平易に整理されており理解しやすい構成になっている。現在の内航海運の課題である高齢化、働き方改革による船員不足の加速などを中心に論じられており内航海運の歴史をふまえた記述には説得力がある。学術的価値があるとともに、よくまとめ上げられた好著として評価できる。

≪論文賞≫
該当者なし

≪功労賞≫
高田 富夫氏(流通経済大学名誉教授)

受賞者略歴
 1971年早稲田大学第一商学部卒業。1973年 早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。1976年 早稲田大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学。1978年 名古屋学院大学経済学部専任講師。1997年 早稲田大学博士(商学)。2000年 流通経済大学流通情報学部教授を経て、現在、流通経済大学名誉教授。2015年~2023年 (一財)山縣記念財団理事。主要著書に『海運産業の成長分析』(晃洋書房 1996年)ほか。

選考理由
 長年にわたり、学術面・公益面で、海運、物流、ロジスティクス分野の発展に多大なる貢献をされたことは功労賞に値する。

≪特別賞≫
堀川 惠子氏(ジャーナリスト、ノンフィクション作家)
受賞者略歴
 1992年広島大学総合科学部卒業。広島テレビ放送にて報道記者、ディレクターを兼務。2004年同報道部デスクを最後に退社、東京にて番組制作にたずさわる。読売新聞社・読書委員(2022年~2023年)、広島大学特別招聘(しょうへい)教授。「第23回司馬遼太郎賞」(『狼の義 新 犬養木堂伝』〈林新氏と共著〉に対して)「第1回城山三郎賞」(『教誨師』に対して)、「第48回大佛次郎賞」(下記作品に対して)をはじめ、数々の作品に対して文学賞等を受賞している。

選考理由
 『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』(講談社、2021年7月刊)は、日本にとっての船舶の重要性に注目し、シーレーンの安全と船舶による輸送力の確保が、平時にも戦時も決して欠けてはならないことを伝えるために、太平洋戦争開始前に、広島・宇品の陸軍船舶司令官であった田尻昌次中将の膨大な手記をはじめとした資料や聞き取り調査を元に著した渾身の力作であり、この本を通じての船舶の重要性を伝える講演活動も含め、特別賞に値する。

                                                     

以上