『海事交通研究』(年報)第69集を発行しました。


  12月22日発行後、海事関連の研究者の皆様や企業、団体並びに公立や大学の図書館に配本しました。配本先図書館等は、こちらからご覧下さい。
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  また、本誌をお読みになってのご感想・ご意見なども是非お寄せ下さい。       
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  なお、本誌巻末、「山縣記念財団からのお知らせ」の中の2021年3事業募集記事ならびに奥付に一部記入漏れがあり、お詫びします。こちらをクリックしてご覧下さい。

 

≪序文から≫
 今年は、新型コロナウィルス感染症に翻弄された一年でした。
 感染拡大で経済活動が停滞している中でも、私たちが日々手にしている食料品や日用品・エネルギーの多くは、海上物流を通して、海外から輸入されています。安定的な海上輸送は、社会、そして国民の安心を得るために欠かせない、ということを改めて、身に染みて感じました。
 感染症の影響で、フィリピン他の船員供給国では、乗船を目的とした船員の国内移動はもちろん、海外への渡航も制限を受ける中、乗組員は船主との雇入契約が経過し、あるいは海上労働条約に基づき旗国が定める連続乗船の最長期間を過ぎても交代できない状況が続いています。また、日本での感染の初期にクラスターが発生したクルーズ船の安全対策には厳しい世間の目が注がれ、折角、昨今注目されてきたクルーズの未来にも不安の影を落としました。他にも、海運・物流・港湾・造船を始めとする海事産業の現場の勤務体制に与えた影響は計り知れず、私たちは、今後、ウィズ・コロナの「新常態(ニューノーマル)」にどのように対応していくか、という大きな課題に直面していると思います。

 さて、当財団は、このような中で、本年6月に「設立80周年」を迎えることが出来ました。80年前、1940年(昭和15)前後の日本海運の状況については、巻末の「山縣記念財団80年の歴史を振り返って」をご参照頂くとして、当財団では、設立80周年を記念するために、「江戸時代以降」というさらに長い期間に視点を展開し、その間海運の世界で活躍した人々の評伝集『日本の海のレジェンドたち』を編むことに致しました。おかげさまで、各「レジェンド」の評伝執筆をお願いした皆様のご協力を得て、来年2021年早々には発刊出来る予定です。その際は当財団ホームページでもお知らせしますので、是非お読み頂ければ有難いです。

 一方、本誌では、むしろ未来に目を向け、「海事産業の未来への展望と課題」を特集テーマと致しました。
 坂本氏の「洋上風車周辺海域における船舶航行の安全確保に向けた取組み」では、近年日本でも注目されている洋上風力発電事業において、海事分野が如何に関わっていくか、について、洋上風車周辺の航行安全確保に向けた取組みに焦点を当てて述べられています。
 畑本氏の「内航船員の需給予測の在り方」では、従来から問題視されている内航船員の⾼齢化・不⾜に着⽬し、内航船員の需給予測のあり⽅について考察しています。
 大内氏の「風エネルギーを使用した船舶のゼロエミッション化」では、外航船舶からの CO2排出量を2050年までに半減、今世紀にはゼロにするという2018年IMOで決議された目標を実現するために、現在注目されている、風力エネルギーを使用した「ウィンドチャレンジャー計画」の取り組みについて解説して頂きました。
 荻野氏の「コンテナの未来 ―持続可能な社会の実現に貢献できること―」では、持続可能な社会を実現するための一助として、海上輸送以外にも、災害時等のコンテナの新たな使い方を提案しています。            
 さらに、自由テーマでは、万谷氏・藤本氏共著の「警告信号『汽笛を吹鳴するのは誰か』―現行法と船舶運航者との認識の相違―」において、警告信号を「誰が鳴らすのか」について、船舶運航者間や船員養成課程の教員間で見解が分かれている現状に鑑み、法と現場とのギャップ解消のための考察を行っています。
 また、亀山氏の「港湾後背地のマーケットポテンシャルと港湾の利活用―九州・沖縄管区の14港湾と都市の事例から―」では、近年、外航クルーズ船の寄港地となっている九州・沖縄の港湾の中にもともとコンテナやバルクの港湾であったものが見られることから、九州・沖縄の各港湾と後背地の産業集積を分析対象として、これらの港湾のマーケットポテンシャルが物流や旅客とどのような関係にあるのかを計量的に分析しています。
 今回ご寄稿を頂いた皆様や、査読を頂いた皆様に、心から御礼を申し上げます。

 さて、これまで、募集論文のテーマについて、メインを指定テーマもしくは統一テーマとし、サブを自由テーマとして原稿を募集して参りました。しかし、海事関連の研究テーマは多岐に亘っており、指定/統一テーマを限定するよりも、むしろ、メインを自由テーマとして、参考までにいくつかのテーマの例示を表記するにとどめた方がよいのではとの考えに至りました。今後につきましてはご自由にテーマを設定頂き、ご応募頂きたく、よろしくお願いいたします。
 同時に、本誌は、海事社会・産業の現代的な問題及び将来的な方向性を捉えて世に問う役割も担い続けて行きたいと思います。近年、海運企業の経営に当たっては、「環境」や「デジタル化」を始め多くの課題がありますが、巻末の募集要領に挙げた例示を参考にされ、テーマを選んで頂ければ幸いです。 
 最後に、今回もこうして『海事交通研究』をお届け出来ることに感謝しつつ、皆様のご健康とご発展とをお祈り申し上げます。

2020年12月
                            一般財団法人 山縣記念財団
                             理事長    郷古 達也

 

≪目次≫
序文 郷古 達也
【特集 海事産業の未来への展望と課題】
  ≪研究論文(査読付き)≫
     洋上風車周辺海域における船舶運航の安全確保に
     向けた取組み
坂本 尚繁
     内航船員の需給予測の在り方 畑本 郁彦
  ≪特別寄稿≫
     風エネルギーを使用した船舶のゼロエミッション化 大内 一之
  ≪研究ノート≫
     コンテナの未来
     ―持続可能な社会の実現に貢献できること―
荻野 義雄
【自由テーマ】
  ≪研究論文(査読付き)≫
     警告信号『汽笛を吹鳴するのは誰か』
     ―現行法と船舶運航者との認識の相違―
万谷 小百合・藤本 昌志
     港湾背後地のマーケットポテンシャルと港湾の利活用
     ―九州・沖縄管区の14港湾と都市の事例から―
亀山 嘉大
 

執筆者紹介

山縣記念財団80年の歴史を振り返って
(資料1)山縣記念財団刊行『海事交通研究』(年報)のバックナンバー
(資料2)山縣記念財団による主要出版図書の紹介
(資料3)「山縣勝見賞」歴代受賞者
(資料4)山縣記念財団の年表 

山縣記念財団からのお知らせ
   

 

≪執筆者紹介≫
(掲載順)
坂本 尚繁(さかもと なおしげ)
 東京大学教養学部卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。修士(学術)(東京大学)。(公財)日本海事センター企画研究部専門調査員等を経て、現在(公財)日本海事センター研究員。研究分野は国際法、国際環境法。近年の論文として「SOx規制の遵守確保 ─国際法の観点を中心に─」、「GHG排出削減と脱炭素化に向けた対応について ―代替燃料に関する欧州での分析事例を参考に―」(共著)、「船舶の燃費改善と船舶運航・性能管理システム」(共著)等がある。所属学会は、国際法学会、日本海洋政策学会。

畑本 郁彦(はたもと ふみひろ)
 1970年生まれ。広島商船高等専門学校機関科卒業後、外航船員の経験を積んだ後、広島大学工学部に編入。その後、海事コンサルタント業、外航船工務監督、内航船員などの職に就く傍らNPO法人日本船舶管理者協会の理事・技術顧問、一般社団法人 海洋共育センターの特別顧問等を歴任。また、2017年に神戸大学大学院海事科学研究科博士課程を修了した。現在(2019年5月から)は、日本内航海運組合総連合会にて船員対策委員会・環境安全委員会の事務局業務を行っている。海事関係の資格等:一級海技士(機関)、二級海技士(航海)、三級海技士(電子通信)、海事補佐人。専攻:内航海運の船舶安全管理に関する研究主な著書(共著者:古莊雅生):『内航海運概論』2020年、成山堂書店(12月出版予定)、発表論文:「内航海運の船舶管理における法的側面の課題」(『日本航海学会論文集』第136号)、「内航海運における船舶管理業務に関するガイドラインの改善」(日本海運経済学会『海運経済研究』第51号)など。

大内 一之(おおうち かずゆき)
 東京大学工学部船舶工学科卒業後、大阪商船三井船舶(株)入社。1994年に東京大学より学位(工学博士)授与。2000年に(株)商船三井を退社し、株)大内海洋コンサルタントを設立し代表取締役就任。また、東京大学大学院工学系研究科特任教授就任後、2009年より東京大学産学共同研究「ウィンドチャレンジャー計画」の研究代表を務める。現在、㈱商船三井技術顧問、金沢工業大学客員教授。専門は、船舶海洋工学、流体工学、再生可能エネルギー工学、海洋深層水利用学。主要論文に、「PBCFの開発‐プロペラボス後部流れの改善‐」、「密度流拡散装置の研究開発」、「船舶における風力の利用」、「水素生産帆船の研究‐概念と可能性‐」がある。日本造船学会90周年記念懸賞論文賞、日本造船学会賞、運輸省関東運輸局長表彰、運輸大臣表彰、日本太陽エネルギー学会賞、発明協会奨励賞、海洋深層水利用学会賞を受賞。所属学会は、日本船舶海洋工学会、日本マリンエンジニアリング学会、日本航海学会、日本機械学会、海洋深層水利用学会等。

荻野 義雄(おぎの よしお)
 一橋大学経済学部卒業。株式会社三井銀行(現三井住友銀行)入行、プロジェクトファイナンスや国際金融、リース業務などに従事。在籍中に世界銀行グループの国際金融公社(International Finance Corporation)や日本貿易保険に出向。現在、株式会社ジャパンインベストメントアドバイザー執行役員事業開発本部副本部長。航空機や船舶、コンテナのリースビジネスに携わる。米コロンビア大学MBA。

万谷 小百合(まんたに さゆり)
 東京商船大学卒業後、航海士として長距離大型フェリーに乗船。海技教育機構海技大学校で学生課長を経て、現在同大学校研究統括室長兼務航海科准教授。専門分野は航海法規、極水域運航訓練。近年の論文として、「衝突のおそれ・避航動作・適用航法決定過程の相違-漁ろう従事者と一般動力船運航者の行動からの検証-」、「「船員の常務」と「注意深い船長」の解釈の相違-「船員の常務」数値化の問題-」、著書として、『二級・三級海技士(航海)口述試験の突破 法規編 6訂版』(共著)、『海技士3N 口述対策問題集 航海科口述試験研究会編』(共著)」。所属学会は、日本航海学会、日本海洋人間学会。現「南極地域観測統合推進本部輸送計画委員会委員」、「公益社団法人神戸海難防止研究会常任調査研究委員」等委員。

藤本 昌志(ふじもと しょうじ)
 神戸商船大学卒業後、2005年大阪大学大学院法学研究科博士後期課程修了。神戸大学海事科学部助手、助教授を経て、現在、同大学海洋教育研究基盤センター副センター長、准教授。博士(法学)。一級海技士(航海)。専門分野は海上交通法、安全管理、海事行政。近年の論文として、「海上衝突予防法39条の「船員の常務」の法的解釈について-海難審判裁決取消請求判決から見た検討-」、「衝突のおそれ・避航動作・適用航法決定過程の相違-漁ろう従事者と一般動力船運航者の行動からの検証-」、「小型船舶の衝突海難防止のための特別規定に関する提言」(当誌第63集、2014年)、著書として『概説 海事法規 2訂版』(共著)、『図解海上衝突予防法11訂版』、『図解海上交交通安全法9訂版』等がある。2012年BEST PAPER AWARD(Asia Navigation Conference 2012)、2017年日本航海学会論文賞受賞。所属学会は、日本航海学会、日本海洋政策学会、日本海洋人間学、公法学会、The Nautical Institute。

亀山 嘉大(かめやま よしひろ)
 京都大学博士(経済学)。財団法人国際東アジア研究センター研究員、香川大学大学院地域マネジメント研究科准教授、佐賀大学経済学部准教授を経て、現在、同大学教授。公益財団法人アジア成長研究所客員教授。専門は都市経済学、交通経済学。その他、高知新港振興プラン検討委員会座長を務める。近著に『復興の空間経済学-人口減少時代の地域再生-』(共著・日本経済新聞出版社)、「中四国・九州地域における自動車部品供給企業の生産性と輸送を含むマーケットポテンシャル」(第27回 日本海運経済学会賞(論文の部))「北九州港ひびきコンテナターミナルに寄港したクルーズ船の船員の観光行動の規定要因-Norwegian JoyとCosta Serenaの事例から-」(共著・本誌67集、2018年)、「地域産業政策に関するパネルデータ分析」(共著・2020年度 応用地域学会論文賞)がある。所属学会は応用地域学会(第33回 研究発表大会実行委員長)、日本海運経済学会、日本交通学会、East Asian Economic Association等。
                                                   (敬称略)